Interview |くつした(from Kyoto)後編

Interview |くつした(from Kyoto)後編

くつしたは“バンド大好き”派と
“歌が好き”という女の子たちの両方から
支持されているみたいです。

パンクでロックンロールなポップ・バンド“くつした”インタビューの後編、以下どうぞ。

物事は少し謎に包まれていた方が魅力的

——さて、新作についてですが、今回は初のオフィシャル盤ですよね。今思うことって?

ながおか じゃ、ひとりずつ言ってこう!(とメンバーに促す)

おくむら 今回バンドとしては2枚目のアルバムになるんですけど、前作は自分たちの好きに録っていたのが、今回は初公式盤ということでレーベルからのリリースになるので、(サザナミ・レーベル)オーナーの蒲池さんやエンジニアさんの意見を反映しながら一緒に作っていったという感じだったんですよね。今回のように第三者の意見に耳を傾けながら製作できたのは良い経験でもあったし、同時に良い方向へ進めることもできたと思っていて。メンバー以外の人たちが関わったことで、僕自身もドラムのパートを膨らませることができたわけで。その辺はやっぱり前作と違うポイントですね。

ながおか 今回の新しい試みとしてはキーボードを導入したり、新作のための新曲2曲を収録したり。あとは、今までに演奏したことのない曲も入れましたね。

——ちなみに、新曲というのは?

ながおか 「きのうみたゆめ」と「ANOTHER TWON」です。

まち エレピを入れている曲ですね。

ながおか 「きのうみたゆめ」はタイトル通り、つかめない雰囲気を出すことができたのかなって(笑)。完全に後付けではあったんですけど、あの曲が入ったことでアルバムそのものがぐっとまとまったなと思っています。

——しかも、アルバムには起承転結のような流れがありますよね。

ながおか ですね!

——途中でうねりがあったり。ぐいぐい引き込まれながら、さらっと聴けてしまいますね。最後は夢から覚めるような感じでふわっと落ち着いて終われるような。

ながおか あははは! タイトル自体が「こう!」というものではないですからね。“きのうみたゆめ”ってテーマそのものもふんわりしているし。私自身よく思うんですけど、物事はすべてが明らかになるよりちょっと謎に包まれていた方が魅力的というか、興味をかき立てられるものだなって。今回のアルバムは、自分としてはそうできたという自負があるんです。うまいこと言えないんですけど…。

——わかるようなわからないような…わからないようなわかるような…(笑)。

ながおか そう! それなんですよ!(笑) つかめない感じ、それがすごくいいなと思っているんです。

——実は、夢の方がリアルな世界だった…みたいな?

ながおか …あ、いや、それは違うんですけど(笑)。受け取り方は聴き手にすべて丸投げするというスタイル。そう、すべてを自由にとらえてもらいたいんです。「これはこうですよ」と説明はしたくないタイプなので、聴いてくれた人が感じたままに思ってもらえたらそれでオッケー。勝手にいろいろ想像してもらいたいですね! そういうところを踏まえていい空気感になっていると思っていて。前作の『WAO!!!』は挨拶的な感じで、あれはあれで“WAO!!! ”っていう元気なノリで。

まち …ご、語彙がなさすぎる(笑)。

ながおか (笑)そんなわけで、具体的な説明をしたくない派なんですけど、それをうまいこと、自分のイメージするままに仕上げることができたなって。じゃ、そろそろ次の人に投げます(笑)。

まち レコーディングのたびに本当に勉強になりますね。そして、毎回自分の足らんところを痛感させられます(笑)。私たちは明らかに技術がないんですけど、それでも蒲池さんやエンジニアの(和人/ELECTRIC EEL SHOCK)さんが、こう、ブースの向こうでキャッキャッやっていて…わかります? そんな風に自分たちが大人の人たちを喜ばせている感じが何とも言えず良かったです(笑)。私たちは自分たちのやっていることを自分ではうまく表現できないでいるんですけど、年齢が上な分だけふたりは音楽的な語彙もたくさんあって、「これ、めっちゃフォーキー」とか「なんとかのバンドだね、この曲は」、「このベース・ラインは…」…とか言い合っているんですよ。

——わはは。想像できる(笑)。

まち 半日ぶっ通しで作業していた日もあって、うちらはずっとハイテンションの状態でいられるタイプではないんですけど、ロック好きの大人たちはやっぱりバイタリティが違うわって。ふたりが自分たちのそばにいるということに心強さを感じていました(笑)。

新作は、“新しいくつした”になっています!

——先ほどの話では、いろんな意見に耳を傾けながら製作していったということでしたが、実際作業する中でアプローチの手法を変更、または結果的に変わってしまったということはわりとあったんでしょうか? 前作と比較すると、バックの音のバリエーションもかなり豊富になっていますよね。フォーキーでもあったり、ニューウェイヴっぽかったり、パンクロックだったり…英国ロック色もまた強くて。

ながおか うん、そうですね! ただ、こういう感じの演奏にしたいって言うこともあるんですけど、技術的にうまくいかなくて最終的には思っていたのとは違う雰囲気に仕上がるというか。

まち 結果的にオリジナルになるっていう(笑)。

——あら、それは素敵ですね。

まち …良く言えば(笑)。

ながおか 結果的にイメージしていたものと別の仕上がりになる…って、これ、本当によくあるんですよ(笑)。

——それ、最高じゃないですか(笑)。

全員 わははははは!

おくむら あと、冒頭でも話した通り、みんな好きな音楽が少しずつ違うので、(ながおかが)「こんな感じで」と伝えてもこちらのふたりはちょっと違う解釈をしていて。それが良い方向に転んだ結果でもあると思っているんです。新作はある時期に作ったものをまとめているアルバムというわけではなくて、この作品のために作った曲も2曲入っていると同時に、逆にすごく古いものも入っていて。それこそ、超初期にふたり編成でやっていた時代の曲も収録しているんですよ。

——えっ! ちなみにどの曲ですか?

全員 「前髪カッター」!

——おおっ、「前髪カッター」!

ながおか アレンジは完全に変わっていますけど、当時の雰囲気は残っているかもしれない。

——「前髪カッター」、あの曲の破壊力もまたすごいですよね。

ながおか わははは! あれこそ、キーボードでリズムをドドタッドドタッって刻んでいたんですよ。

まち 当時は私がギターでワウを踏んでいましたし(笑)。

ながおか それこそ、無機質っぽいイメージがあって。

——あの曲はポップでいて、同時にものすごくシュールですよね。

ながおか あはははは! あれは歌詞先行だったと思います。昔…今は半々の割合ですけど、曲が上がってから歌詞をつけるパターンも多いんですよ。ファミレスとどこかで歌詞を書いたような記憶も。

——どんな風に曲作りをやっていますか?

おくむら メインで曲作りをしているのはながおかなので、ながおかが持ってくる母体を3人でアレンジしていくという感じですかね。

ながおか こういう曲にしたいって雰囲気を何となく伝えてって。

——それが3人の解釈の違いで思わぬ方向へ転びながら曲として完成していくというのは、やっていてもきっと面白いでしょうね。

ながおか&まち そうですね!

——ちなみに、ながおかさんはどういうところからインスピレーションを得ることが多いですか?

ながおか インスピレ〜ション…。

——曲の題材や着眼点が面白いし、メロディはキャッチーで鼻歌の延長にあるような心地よさがある。そういうのってひらめきから生まれるのかな…と思って。

ながおか 確かにメロディは鼻歌から生まれることが多いですけど、例えば、ギターを触ったり、音楽を聴きながらこういう演奏っていいなって弾いているうちにフレーズが出てくることがあったり…いろいろですね。歌詞については、私はすぐにものから影響を受けてしまうタイプだから、例えば、漫画を読んでいてその漫画の世界観をカッコいいなーと思ったら勝手に自分なりの解釈で書いてしまうとか。漫画はね、結構多いんですよ(笑)。あとは映画も。

おくむら 「ビートルジュース」もそうだもんね。

ながおか そうそう。『ビートルジュース』という映画を観たのは小学生の頃だったんですけど、映画のインパクトが強すぎて。あれは、モロにそのまま書いたものです。

——ながおかさんの、特にお気に入りの漫画って何ですか?

ながおか そんなに詳しいわけではないし、歌詞で歌っている雰囲気って(その漫画の世界観とは)結構違っていたりするんですけど、『ジョジョ(の奇妙な冒険)』にハマった時は完全にそういう脳みそになっていました(笑)。最近『北斗の拳』を読み出しているので、次回作にはどこかにその要素が入るかもしれない(笑)。「ああ!」ってロマンを感じると、そこから自分の中でイメージがどんどん壮大に膨らんでいくんです。

——(笑)例えば、「きのうみたゆめ」はどんな風に生まれたんでしょう?

ながおか あれはね、ほんとフワフワしていて。「何で生まれたんだっけ?」っていうくらいに(笑)。ただ、言葉の響きがいいなっていうのはあったかもしれない。歌詞は、正直レコーディングの時には全部書き終えていなかったんですよ。だからヤバいヤバいって言いながら書いていて。あの曲は完全に音の響きだったんです。でも歌詞の世界が音とリンクしているというか。

——なるほど。

ながおか 例えば、レコーディング中に最後に“え”の母音のつく言葉を…「え…え…」って探してって、「これいい!」というものをどんどん繋げていくんですよ。あれは、かなりギリギリでしたね(笑)。

——最後に「あれは全部ウソだった」って落としているところもまた好きでした。

ながおか あはは。そうですか(笑)。歌詞の端々に前進していく勢いがあるんですけど、変化していく気持ちを自然に表現できたんじゃないかなと思っています。

——あと、「ノーフューチャーノークライ」で「ノーフューチャーって言わないで」って歌っているところも好きですね。意図的ではないのかもしれないけど、そこに不思議とながおかさんのキャラが出ているような気がして。

ながおか ああああ、あそこですね(笑)。あの曲はね、大学時代に作った曲だったんですけど、当時私の周囲に悲観的になる人が多かったというか。だからと言って、その人たちに向けているわけでも、特別な意味やメッセージがあるわけでもなくて。イーグルスの「Take It Easy」っていいフレーズだな…みたいなノリなんです(笑)。

——“気楽にいこうよ”とか“のんびりやろう”的な?

ながおか “気楽にはやれないけど、そんな風に生きたいよな”みたいな。メッセージ云々というより、私としては“ティーンエイジャー”という言葉っていいよなって使ってみたという。ほんと、私ってそんな感じなんですよ(笑)。

——本当に響きを重視しているんですね。

ながおか いや、でも、何かしらの意味は自分の中にあったと思うんですよ(笑)。だから“ノーフューチャー”という言葉をチョイスしたのだろうし…そんな記憶があります(笑)。

——(笑)それでは最後に、くつしたを前から知っている方、新作『きのうみたゆめ』で初めてくつしたを知ったという方に向けてメッセージをいただけますか?

ながおか イメージ的に言うなら、日常生活の中で「今日の夢、こんな感じだったな」みたいな感覚というか。特にこうあるべきという聴き方はないので、好きにとらえてもらえたら嬉しいです。その中で、それぞれのお気に入りを見つけてもらえたらいいかなって。『きのうみたゆめ』はタイトル通り、気負わずに聴けるアルバムになっていると思います。

まち ファーストのフル・アルバムもリリースしているし、新作はセカンド・アルバムという感覚があるんですよね。前回とは音もだいぶ異なっているし、曲の幅も広がってきていることもあって、気に入ってくれている人がまた違ってきているんじゃないかなと思っていて。くつしたって、バンド大好きという人が聴いてくれていたり、また別で女の子たちが「歌がいい!」って聴いてくれているんですけど、新作ではどうとらえられるのかな? みなさん、ぜひ試しに聴いてみてください(笑)。新作では前とはまた違う、新しいくつしたになっていますよ!

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